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 大量消費の現代に、一切機械に頼らず、手作業だけで何年も掛けて作られるモノがどれほどあるでしょうか。使い込むほどに愛着が湧いてよくなると言われるペルシャ絨毯の秘密がそこにあります。ペルシャ絨毯の裏を見てください。無数のマス目のようなものが見えますね。このひとマスひとマスが、たて糸に結び付けられた色糸なのです。肉眼では数えられないですね。100万個も200万個もあるのですから無理もありません。


 しかし、その個数分だけ職人さんの手が結ぶ動作をしたということに他なりません。
100万個結ぶには一体どれほどの時間がかかるのでしょうか?丈夫で華麗なペルシャ絨毯の輝きの陰にあるものとは… それでは、ペルシャ絨毯完成までの気の遠くなるような道のりをご紹介しましょう。


モハッマド・ホセイン・ベナム氏

 ペルシャ絨毯制作の際には、まず元になるデザイン画が用意されます。デザイン画は方眼紙上に描かれています。なぜ方眼紙かといえば、織り職人はデザイン画の一部を手元に置いて、マス目に塗られた色と同じ色糸を瞬時に選び出して結び付けるからです。

 ペルシャ絨毯のデザインは、伝統を継承しつつも時とともに進化しています。これはイラン以外の絨毯産地では、ほとんど見られない現象であり、それに起因する多種多様なデザインはペルシャ絨毯の大きな特徴のひとつと言えるでしょう。そんな背景から、イランでは数多くの人が絨毯専門デザイナーとして活躍しています。工房に所属するデザイナーから、個人で制作したデザインを売って生活している人まで様々です。最近の有名デザイナーとしては、ヨーロッパを中心に絶大な人気を獲得して一世を風靡したモハッマド・ホセイン・ベナム氏が挙げられます。


 デザインが決まると、どんな色の糸がどれだけ必用かが割り出されます。ここで絨毯製作者は、必要な色糸を準備しなければなりません。昔は大半の工房が自分で染色を行っていましたが、最近は製品として販売されている色糸を購入して使用する工房も多いようです。
 遊牧民は自ら飼っている羊の毛を刈り、製糸・染色を行いますが、町で絨毯制作に携わる人たちは自ら羊は飼いません。したがって、少なくとも染色前の材料は購買することになりますが、稀に生産者と契約して、理想的な材料を入手すべく羊や蚕を育てることから努力している工房も存在します。


 ペルシャ絨毯に主に使用される糸は、絹・羊毛・木綿の三種類です。シルクはイラン北部のカスピ海近郊が昔から優良生産地として知られています。クムやカシャーンなどのシルク絨毯産地は、カスピ海近郊産シルク糸をよく使います。ウールはイラン独自の寒暖の差が激しい環境で育てられたペルシャ羊の毛がよく使われます。この羊の毛は、その気候に耐えうるための保温力や保水力をもっており、絨毯には最適な素材といわれています。特に子羊の柔らかい産毛のみを使用した「コルクウール」と呼ばれる羊毛は、弾力性と起毛性に優れた上質の素材です。オアシスで採取される木綿は質が高く、絨毯のたて糸やよこ糸に使われます。


 ペルシャ絨毯は、世界各国の手織り絨毯と比べて、圧倒的に鮮やかな色使いをひとつの特徴としています。高度な織りの技術を目の当たりにすると驚かされますが、伝統技術として継承されてきた染色の技も、宝石のような美しい絨毯作りに大いなる貢献を果たしているのです。近年の優れた絨毯には、実に多くの色糸が使用されているケースが目立ちます。素晴らしいデザインがあったとして、それを絨毯として誕生させるには、おびただしい数の色糸と高度な織りの技術が要求されるわけです。


 現在のように化学染料が開発されていなかった時代の染色は100%草木染めでした。化学染料が登場してからも、技術が足りずに色落ちなどの不具合が多く且つ高価だった頃はあまり使われませんでした。しかし、化学技術が進歩して、良質で安価な染料が入手できるようになると、多くの生産者は草木染めから離れていきました。草木染めは、職人のさじ加減で出来不出来が左右されるリスクがある上、原料調達が困難でコストが高くつく等の理由からです。もちろん、現在でも草木染めにこだわり続ける生産者や工房も存在します。例えば“シルク絨毯の王様”と呼ばれるモハッマド・ジャムシーディ工房では、100%自工房でシルク糸の草木染めを行います。シルク糸の草木染めはウールに比べて一層困難であるとされていますが、同工房では40年間に渡り試行錯誤を繰り返しつつ研究を重ねた結実として、現在大量の色糸をストックしています。染色は工房マスターであるジャムシーディ・プール氏自身が行っており、染色方法は「秘中の秘」として外に出ることはありません。


 尚、現在使われている化学染料は絨毯制作用に研究・改良されたものであり、定着性や発色に優れ、不具合が生じることはほとんど無いことを付け加えておきます。  


 絨毯制作工程の中で、最も多くの時間が費やされるのがこの“織り”です。結び方自体はさほど難しくありませんが、方眼紙のマス目の色を見て瞬時に色糸を選び出し、素早くたて糸に絡ませて切るという一連の動作が素早く出来なければ、何年経っても完成は望めないでしょう。それに数年間にわたって毎日毎日織り機の前に座り、同じ単純作業を繰り返し行うには大変な精神力と体力が必用です。


 熟練の職人であっても、一日に結べる回数は5000回が限度といわれています。例えば、100万ノット(1 m2の中に100万個の結び目)の結びで3メートル×2メートルの絨毯を制作するとしましょう。1m2織り上げるのに200日(100万÷5千)かかるわけですから、その6倍の1200日という計算になります。全く休日を計算に入れなくても3年以上は間違いなく掛かるということです。ちなみに100万ノットの織りは、上質ですが珍しくないレベルです。



1
織機に縦糸を張ります。
2
前後の縦糸に横糸を交互に交差させ何列が平織りします。
3
方眼紙に描かれた精密なデザイン画をもとに 縦糸に1本づつパイルの結び目(ノット)を作っていきます。
4
結んだパイルの糸をナイフでカットしながら横一列の結び目を完成させます。
5
横一列完成したら横糸を2本縦糸に通します。鉄櫛で下方にパイルをたたき結び目を詰めます。
方眼紙に描かれたデザインが絨毯に織られていく様子

ペルシャ絨毯の結び目の作り方は2種類あります。
上(緑糸)は「ペルシャ結び」(非均等結び)です。
指で色糸を絡めていきます。アゼルバイジャン地方を除く大半の地域ではこの結び方で絨毯を制作します。


下(赤糸)は「トルコ結び」(均等結び)です。
イランではタブリーズで織られる絨毯がこの結び方です。鈎針を使って色糸を絡めていきます。


洗浄:大量の水を使い鍬に似た道具で絨毯の汚れや無駄な毛をこすりだします。
乾燥:天日で干します。縦横に歪みのある絨毯は生乾きの状態で木床に釘で固定して矯正します。
ケルズ ダァダン:絨毯の裏側の仕上げ:ウール絨毯は裏面の余分な遊び毛の部分だけをバーナーで燃やします。
シャーリング:「ティグッ」という絨毯シャーリング用のナイフで絨毯の表面を削り平らにします。毛並みの揃った絨毯は鮮明な模様を見せてくれます。
ブラッシング:最後にブラシをかけ余分な毛を取り除きます。細かいキズが見つかったら補正します。

最後にアイロンをかけて出来上がりです。

 たくさんの工程の中で多くの職人さんの手が掛けられて、ようやく一枚のペルシャ絨毯が完成します。否、凛として新鮮な輝きを放ち、若々しい芳香を漂わせるこのペルシャ絨毯は、ここから完成への道を歩み始めるのかも知れません。


 制作に携わった人々は、優しいご主人様の元で大切に扱われることを祈るばかりでありましょう。